Kindle の画面はなぜ目が楽なのか? 電子インクが絵を描く仕組み
スマートフォンで 1 時間文章を読むと目がしょぼしょぼするのに、Kindle のような電子書籍リーダーなら何時間読んでも疲れにくい。画面の明るさを下げているから? それとも気のせい? 答えはどちらでもありません。電子書籍リーダーの画面は、スマートフォンと原理そのものが違う代物です。 今回は電子インク(E Ink)の画面が文字を描く仕組みを整理します。
光を放つ画面と、光を反射する画面 #
スマートフォン、モニター、テレビの画面に共通するのは、自ら光を出すことです。画面の裏(または画素そのもの)で光を作り、私たちの目に向けて放ちます。暗い部屋でも画面が見える理由であり、長く見ると疲れる理由のひとつでもあります。私たちの目は光源を直接見つめているわけですから。
紙は逆です。紙は光を出さず、部屋の照明や日光を反射するだけです。人類が何千年も読んできた方式で、目にはこちらが自然です。
電子インクはこの紙の方式を電子画面で再現した技術です。画面が光を作らず、周囲の光を反射して見せます。だから炎天下の屋外でスマートフォンの画面は見えなくなりますが、電子インクはむしろくっきりします。本物の紙と同じように。
マイクロカプセル — 電気で動く黒い粉と白い粉 #
では、光も出さない画面がどうやって文字を描くのでしょうか。電子インクの画面を顕微鏡でのぞくと、髪の毛の太さほどの透明なマイクロカプセルが数百万個敷き詰められています。カプセルひとつひとつには、油のような液体と一緒に 2 種類の粉が入っています。
- 白い粉: プラス(+)の電気を帯びています。
- 黒い粉: マイナス(-)の電気を帯びています。
カプセルの下には電極があり、電気をかけられます。下側をマイナスにすると、プラスの電気を帯びた白い粉は下へ引き寄せられ、マイナスの黒い粉は反発して表面に浮かび上がります。するとその地点は黒く見えます。電気を逆にかければ白い粉が浮かんで白く見えます。この白黒の点を数百万個組み合わせて、文字や絵を作るのです。磁石の同じ極は反発し、違う極は引き合う。小学校で習ったあの原理で、画面にインクを「配置」しているわけです。
電気を切っても画面が残る — 数週間持つバッテリーの秘密 #
ここで電子インクの最も不思議な性質が出てきます。粉を一度動かしておけば、電気を切っても粉はその場にとどまります。 水あめのように粘り気のある液体の中にいるので、勝手に漂えないからです。
スマートフォンの画面は点いている間じゅう電気を使います。一方、電子書籍リーダーはページをめくる瞬間だけ電気を使って粉を並べ替え、そのあとは電力消費ゼロで画面が維持されます。同じページを 1 時間読んでいてもバッテリーはほとんど減りません。電子書籍リーダーのバッテリーが「数時間」ではなく「数週間」単位で持つ秘密がこれです。
ちなみに最近のリーダーに付いている「画面ライト」は、スマートフォンのように画面の裏から照らすバックライトではなく、画面の手前の縁から画面を照らすフロントライトです。暗い場所で紙の本に読書灯を当てるのと同じ構造なので、光が目に直接飛び込む度合いがずっと小さくなります。
ページをめくるとき点滅する理由 #
電子書籍リーダーを使ったことがあれば、ページをめくるときに画面全体が黒く反転するのを見たことがあるはずです。これは故障ではなく掃除の工程です。粉を物理的に動かす方式なので、前のページの痕跡(残像)がうっすら残ることがあります。そこで数ページごとに一度、画面全体を黒 → 白に完全に反転させて残像を消し、新しく描き直すのです。
同じ理由で、電子インクは速い動きが苦手です。 粉の移動に時間がかかるので、動画やなめらかなスクロールは無理です。電子書籍リーダーが映像機器ではなく「読む専用」の機器なのは、スペックをけちったのではなく原理の限界です。その限界と引き換えに得たのが、目の楽さと数週間のバッテリーというわけです。
カラー電子インクはなぜまだ淡いのか #
カラーの電子インクリーダーも売られていますが、使ってみるとスマートフォンの鮮やかな色とは距離があります。理由は構造にあります。白黒の粉の上にごく小さなカラーフィルターを格子状に載せて色を作るのですが、フィルターが反射光の一部を食ってしまうため、画面が暗くなり色が薄くなります。雑誌や漫画のように色が大事なコンテンツにはまだ物足りず、文章中心の本には白黒のほうが今も鮮明な理由です。色表現を改善した方式が次々と出てきているので、この差は少しずつ縮まっています。
まとめ #
- スマートフォンの画面は自ら光を放ち、電子インクは紙のように周囲の光を反射します。屋外でよく見えて目が疲れにくい理由です。
- 画面の中の数百万個のマイクロカプセルの中で、電気を帯びた黒い粉と白い粉が電極の力で上下して文字を作ります。
- 粉は一度配置されると電気なしでその場にとどまります。ページをめくるときだけ電力を使うので、バッテリーが数週間持ちます。
- ページめくりの黒い点滅は残像を消す掃除の工程で、粉の移動が遅いため動画には原理的に向きません。
- カラー電子インクはカラーフィルターが反射光を削るため、まだ薄暗く淡いです。文章を読むなら白黒が今も最善です。