AirPods や Bluetooth イヤホンはどうつながるのか? ペアリング・コーデック・途切れる理由
ケースを開けるとスマホの画面にイヤホンの絵が表示され、耳に装着すると聴いていた音楽が続きから流れます。線なしで音が渡ってくるこの日常はあまりに当たり前になっていて、途中で何が起きているのか気にする暇もありません。この記事では、Bluetooth イヤホンを使っていると出会う言葉たち、ペアリング・コーデック・マルチポイントが実際には何なのか、そして地下鉄でやたらと途切れる理由は何なのかを、コードなしで整理します。
ペアリング — 最初の一度だけの自己紹介と鍵の交換 #
新しいイヤホンを初めて接続するときだけ通る手続きがペアリングです。ケースを開けるとイヤホンが「ここにいます」という信号を周囲に放送し、スマホがその信号を受け取って画面に表示します。ユーザーが接続を押した瞬間、二つの機器は互いの固有アドレスを確認し、二つだけが知る暗号の鍵 を作って分け合います。初対面の人同士が自己紹介をして連絡先を交換するようなものです。
肝心なのは、両方ともこの鍵を保存しておくという点です。だから二度目からは自己紹介の手続きなしに、ケースを開けた瞬間に互いの鍵を照合するだけですぐつながります。Bluetooth 設定の「自分のデバイス一覧」が、まさにこの鍵の保管箱です。
この鍵は入館証であると同時に、暗号化の道具でもあります。電波は空気中に広がる放送なので、その気になれば誰でも受信できますが、二つの機器が分け合った鍵で中身に鍵をかけて送るため、隣の人が受信しても読めません。接続がおかしいとき「デバイスを削除してペアリングし直すといい」という民間療法がよく効く理由もここにあります。こじれた鍵を捨てて新しく作り直す作業だからです。
Bluetooth も Wi-Fi と同じ電波です #
Bluetooth は 2.4GHz 帯 の電波です。家の Wi-Fi や電子レンジが使うまさにあの帯域を分け合って使っています。その代わり出力が弱いので届く距離は 10m 前後と短く、そのおかげでバッテリーをあまり消費しません。
混雑した帯域で生き残るために、Bluetooth は独特の戦略を使います。一つのチャンネルにとどまらず、1 秒間に 1,600 回チャンネルを移り続ける のです。あるチャンネルがうるさければ次の瞬間には別のチャンネルへ逃げる、という具合なので、たいていの干渉は気づかれないまま乗り切れます。
問題は、逃げ込めるチャンネルが残っていないときです。通勤時間帯の地下鉄には、数百人分のイヤホン・スマートウォッチ・モバイル Wi-Fi が同じ 2.4GHz 帯にひしめいています。移ろうとするチャンネルがどこもすでに使われているので、音がぶつぶつ途切れることになります。人の体も変数です。体の水分が 2.4GHz の電波をよく吸収するため、スマホを入れたポケットと反対側の耳のイヤホンが先に途切れるという経験には、物理的な根拠があります。
コーデック — 音を圧縮して送る約束 #
Bluetooth が一度に運べるデータ量は、音楽の原本をそのまま送るには足りません。そこでスマホが音を圧縮して送り、イヤホンが展開して再生するのですが、この圧縮方式の約束が コーデック です。送る側と受け取る側が同じ約束を知っている必要があるため、接続の瞬間に二つの機器は、共通して対応しているコーデックの中から一つを自動で選びます。
よく目にする三つを比べるとこうなります。
| コーデック | 一言で言うと | 音質 | 遅延 |
|---|---|---|---|
| SBC | すべての Bluetooth 機器が対応する基本 | 普通 | 大きめ |
| AAC | iPhone と AirPods の組み合わせの標準 | 良い | 機器によって差 |
| LDAC | ソニーが作った高音質志向 | 最も良い | 大きめ |
AirPods と iPhone なら AAC で、LDAC 対応イヤホンと Android スマホなら LDAC でつながる、という具合です。イヤホンの箱に書かれたコーデック一覧が華やかでも、スマホが対応していなければ意味がなく、その場合は両方が知っている SBC に落ちることになります。
動画は平気なのにゲームはずれる理由 #
圧縮して、電波で送って、展開して再生する過程には時間がかかります。Bluetooth イヤホンの音は普通 0.1〜0.3 秒遅れて届きます。それなのに YouTube を見るとき口の動きと音がずれない理由は何でしょうか。
動画アプリがこっそり補正してくれているからです。音が遅れる分だけ動画も一緒に遅らせて、二つの拍子を合わせます。すでに出来上がっている動画なので、少し遅れて流しても誰も気づきません。一方ゲームはユーザーの入力にリアルタイムで反応しなければならないため、画面を遅らせることができません。画面は定刻どおりに出るのに音だけ 0.2 秒遅れるので、銃を撃ってから銃声が追いかけてくるというずれがそのまま体感されます。ゲーム用イヤホンが低遅延モードをわざわざ売りにする理由です。
マルチポイント — 二つの機器に同時接続 #
ノート PC で動画を見ている途中にスマホへ電話がかかってくると、イヤホンが自動で電話の側に切り替わる機能があります。マルチポイント と呼ばれるこの機能の原理は単純です。ペアリングの鍵を一つではなく二つ記憶し、二つの機器との接続を同時に維持しながら、音を出している側についていくのです。
AirPods の自動切り替えは方式が少し違います。Bluetooth のマルチポイントの代わりに、同じ Apple アカウントでまとめられた機器の間で接続を引き渡す、Apple 固有の機能です。結果は似て見えても Apple の機器同士でしか動かない理由がここにあります。
音が途切れるとき確かめる三つのこと #
最後に、この記事の知識を一行の診断法にまとめます。Bluetooth が途切れるときの点検順序は 距離・干渉・再ペアリング です。スマホとイヤホンの間が遠すぎないか、体が遮っていないかをまず見て、特定の場所でだけ途切れるなら 2.4GHz の混雑を疑えば十分です。場所と関係なくいつも調子が悪いなら、デバイス一覧から削除してペアリングし直し、鍵を作り直すのが最後のカードです。
まとめるとこうなります。ペアリングは最初の一度だけ互いの身元と暗号の鍵を交換して記憶する手続きで、その鍵のおかげで次からはケースを開けるだけでつながります。Bluetooth は Wi-Fi と同じ 2.4GHz の電波なので混雑した場所では途切れることがあり、音はコーデックという約束で圧縮されて渡ってきます。次にケースを開けて音楽が続きから流れるとき、その一瞬の裏で行われている鍵合わせが少し違って見えたら幸いです。